※本記事は、私が前職在籍時に電気設計担当として関わった案件です。守秘義務に配慮し、顧客名・設備型式は伏せています。
制御盤の扉を開けて、まず目に入ったのは錆でした。
30年前に製作された制御盤です。冷凍倉庫という環境で使われ続けた30年分の老朽化が、盤の中に出ていました。まだ動いてはいる。ただ、いつ止まってもおかしくない状態だったと思います。
2024年12月、中部地方の冷凍倉庫。外はマイナス5度、雪が降り積もる中での更新工事でした。工場を止められるのは4日間。その4日で、パレット搬送装置の制御盤を一式入れ替える案件です。
シーケンサの廃番対応や、老朽化した制御盤の更新を検討されている方に、何が論点になるのか・何を事前に決めておくべきかが伝わるように書きます。
制御盤更新の案件概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種 | 食品関連(冷凍食品の保管・出荷) |
| 設備 | パレット搬送コンベヤ装置(2ライン) |
| 内容 | 制御盤の一式更新(既設は約30年前に製作) |
| 規模 | I/O 約128点/モータ16台/制御盤 W900×H1600 |
| PLC | 三菱 A1Sシリーズ → R00UCPU リプレース |
| 担当範囲 | ハード図面・ソフト設計・社内試運転・現地電気工事・現地試運転(電気関連すべて) |
| 期間 | 設計〜納入まで約1ヶ月/現地工事・試運転 4日間 |
| 時期 | 2024年12月 |
搬送していたのは、冷凍の水産物を載せたパレットです。センサでパレットの位置を検出しながらコンベヤで流していく、シンプルな構成の装置でした。
シンプルだからこそ、30年動き続けてしまったとも言えます。
シーケンサ更新で決めなければいけなかった3つのこと
制御盤の更新は「古いものを新しいものに置き換えるだけ」に見えて、実際には判断ポイントがいくつもあります。この案件で論点になったのは次の3つでした。
- 廃番になったシーケンサの後継機種に何を選ぶか
- 30年前のラダープログラムをどう扱うか
- 冷凍環境に置く制御盤をどう守るか
順に書いていきます。
判断1:A1Sの後継シーケンサにR00UCPUを選んだ理由
A1Sは既に生産終了(廃番)となったシリーズです。後継として選択肢に上がるのは、iQ-RシリーズやiQ-Fシリーズ、あるいは他メーカーへの乗り換えです。
今回R00UCPUを選んだ判断軸は3つでした。
メンテナンス性(廃番後も現場が触れるか)
お客様の保全担当の方が、これまで三菱のシーケンサを扱ってこられた現場です。ここで他メーカーに乗り換えると、トラブル時に現場で誰も触れなくなるリスクがあります。
制御盤の寿命は20年以上あります。納入時点の性能より、その後の20年を誰が面倒を見るのかのほうが重要だと考えました。シーケンサはいずれまた廃番になりますが、そのとき現場が困らない体制を残せるかどうかが分かれ目です。
納期(制御盤の更新は停止日程が先に決まる)
設計から納入まで約1ヶ月という日程でした。この期間で確実に手配できる機種であることが前提条件になります。
制御機器の調達難が続いた時期を経験された方は分かると思いますが、「性能は満たすが納期が読めない機種」は、更新案件では選択肢になりません。工場の停止日程が先に決まっているからです。
既設A1Sからの置き換えやすさ
既設がA1Sなので、プログラムの資産をある程度引き継げること、盤内の収まりが大きく変わらないことも判断材料でした。
この案件で感じたこと:機種選定を「安いから」「新しいから」だけで決めていたら、後で困るのは保全担当の方だったと思います。
判断2:30年前のラダープログラムを「変換して終わり」にしなかった理由
A1SからRシリーズへは、プログラムの変換ツールがあります。作業としては、変換をかければ形にはなります。
ただ今回は、変換したうえで中身を全部読み直しました。
理由は単純で、中身を理解していないプログラムは、トラブルが起きたときに直せないからです。
30年前のラダーには、当時の現場事情が織り込まれています。読んでいると「このインターロック、何のために入っているんだ?」という箇所が出てきます。当時は必要だったが今は不要なもの、逆に外すと危険なものが混在している。ここを判別せずに移植すると、後で何が起きるか分かりません。
結果として、社内試運転の段階で新しい装置構成に合わせてソフトを作り直した部分が出ました。不可解だったロジックを整理し、動きそのものを変更した箇所もあります。
この案件で感じたこと:リプレースの見積に「プログラムは変換対応」とだけ書かれていると、解析工数がどこまで含まれているのかが読み取れません。変換だけなら安く上がりますが、中身を理解していない状態で納品すると、次のトラブル時に手が出せなくなります。
判断3:冷凍環境に設置する制御盤の結露・湿度対策
この案件で一番、通常の工場と条件が違ったのがここです。
制御盤の設置場所が冷凍環境でした。
低温環境で問題になるのは、温度そのものより結露です。盤内で結露が発生すると、端子台や基板が濡れて、絶縁不良や誤動作、最終的には機器の故障につながります。しかも結露は目に見えないところで進むので、壊れて初めて気づくタイプの故障になります。
冒頭で書いた既設盤の錆も、こういう環境で30年使われてきた結果です。
対策として、盤内にドレン排出機能付きの除湿機を設置しました。盤内の湿度が上がったら自動で排水する仕組みです。
ヒータで温める方式もありますが、自動排水まで含めた構成にしたのは、保全担当の方が定期的に水を抜きに来なくていい状態にしたかったからです。人の手が要る対策は、いずれ止まります。
この案件で感じたこと:低温・高湿度・洗浄がある現場では、環境条件が分かった時点で盤の構成が決まります。もし後から「実は冷凍庫の近くです」と判明していたら、構成ごとやり直しになっていました。最初に共有いただけたことが大きかったです。
制御盤の更新工事は4日間。配線は全数引き直し
現地入りは、雪でした。外気温マイナス5度、道路には雪が積もっている。ダウンジャケットで完全に防寒して現場に向かいました。冷凍倉庫の中は当然もっと寒く、しかも湿度が高い。装備を整えないと、作業以前の問題になります。
こういう現場では、移動と気候そのものが工程リスクになります。4日という日数には、天候で予定が崩れる余地はありません。
一式更新なので、電気配線はすべて引き直しです。既設流用はしていません。
現地での作業は、電気工事から試運転まで含めて4日間。工場の稼働を止められる日数がそこで決まっている以上、現地で考える時間はないという前提で設計します。
社内試運転の段階でどこまで動きを確定させておけるかが、そのまま現地の日数に効いてきます。
現地試運転で出た動作変更のご要望
試運転が一通り終わったあと、お客様からご要望をいただきました。
もともとの仕様では、コンベヤは起動したら動きっぱなしでした。これを、パレットがなくなって30秒経過したらコンベヤを一時停止する動作に変更してほしい、という内容です。
ソフトのみの改造で対応し、半日かからずに完了しました。
正直なところ、現地でソフトを触って動作を追加するときは、変更した箇所以外に影響が出ていないかが一番気になります。既存の動きを壊さずに追加できているか。ここは念入りに確認しました。
結果として問題なく動作し、この状態で引き渡しています。
この案件で感じたこと:「動きっぱなしを止めたい」のような要望は、現地で装置が動いているのを見て初めて出てくるものだと実感しました。だからこそ、試運転の日程に余白があるかどうかで、その場で対応できる範囲が変わってきます。
この制御盤更新で使用した主な機器
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| PLC | 三菱電機 R00UCPU(既設:A1Sシリーズ) |
| 制御盤 | W900×H1600 |
| 入力機器 | パレット検出用センサ、操作用押ボタン類 |
| 出力機器 | 搬送用モータ 16台(2ライン構成) |
| 盤内環境対策 | ドレン排出機能付き除湿機 |
| I/O点数 | 約128点 |
インバータ・タッチパネルは不使用。シーケンス制御主体の構成です。
老朽化した制御盤の更新を終えて
30年前の制御盤がまだ動いているということは、当時それだけしっかり作られていたということでもあります。更新する側としては、次の30年に耐えるものを渡したいと思っています。
こうした現場を6年間見てきたことが、いまのUbensの事業につながっています。なぜ設計会社でありながらAIの開発もしているのかは、代表が創業に至った理由に書きました。
電気制御設計のご相談について
Ubens株式会社では、電気制御設計・制御盤更新・現地電気工事を承っています。代表は電気制御設計の実務経験6年、約50件の設計案件を担当してきました。
- 老朽化した制御盤のリプレース
- シーケンサの廃番対応
- 装置更新に伴う電気設計一式
このような案件をご検討の方は、お気軽にご相談ください。
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